少女神域∽少女天獄
石井久雄 森山しじみ
大学生の稜祁恂(たかぎしゅん)は、幼なじみとともに故郷へと帰ってきた。ガルデラ盆地の内側にある彼らの故郷――佳城(かいじょう)市は他に類を見ない特異な地形をしていた。それはかつての活火山の痕跡を残す盆地の形状に加え、街を取り囲むように連なる石壁の存在があったからだ。外から見れば『石の城砦』のように見えたが、そこに生まれ育った恂にとっては、子どものころ自分を閉じこめる『石の檻』のように感じていた。恂は幼い頃から、町に敷かれた一本の線路の先――トンネルをくぐり抜けた先を夢見ていた。外の世界に憧れを抱き続けた彼が、大学進学とともに故郷から旅立とうとしたのは当然の流れではあった。そんな恂にとっての念願は、本人が思っている以上にあっさりと実現してしまう。そして、新しい一年が瞬く間に過ぎ去り、春が訪れようとしていた。古い歴史を持つ彼らの故郷では『星鴻祭(せいこうさい)』と呼ばれる祭りが催されようとしていた。それは、恂の実家である稜祁(たかぎ)家が、代々氏子を務めてきた神社の祭りであり、今年は20年に1度だけ行われる特別な神事が行われるという。恂の妹である稜祁祥那(たかぎさな)や幼なじみたちが、神事の重要な役を任されたこともあり、恂も帰省しなくてはならないプレッシャーを感じていたが……。「今年、巫女さんでがんばっちゃうから、ぜーったい一緒に帰りましょうね!」幼なじみ、澳城迪希(おくしろゆき)の有無を言わさない笑顔と、そのひと言で、帰省は回避できなくなった。同じ大学に通い、下宿先まで紹介してくれている迪希も、今年の『星鴻祭』で祥那と同じ重要な役――神楽を舞う巫女の一人として選ばれたのだ。そういった理由で、故郷の土を1年ぶりに踏んだ恂は、駅のホームで悲しげな表情で立つ壟峯碧織(つかみねいおり)を見かける。子どものころはボーイッシュな容姿と態度だったため、男の子の遊びをいっしょにしていた碧織だが、いつのころからか疎遠になってしまっていたのだ。恂が目撃したのは一瞬だったが、碧織の悲しげな表情が脳裏を離れず、いつまでも気にかかった。実家に帰ると、祥那の親友である道陵愛莉(みちおかあいり)とも再会することができ、故郷へと帰った実感を得ることができた。愛莉は子どものころは病弱でベッドから離れられないような子だったが、今は祥那とともに遊べるまでに回復し、時の流れを感じる。町全体が『星鴻祭』に向けて動き始め、はじめは乗り気ではなかった恂も、その日々の中に溶け込んでいく。1年ぶりの故郷を客観的に見ることが出来た恂は、今まで気付けなかった幼なじみの意外な一面などを知るにつけ、互いの想いを育んでいくこととなる。だが、祭りの準備が着々と進む中で、その裏では恂たちが想像もしていないような暗く恐ろしい運命の歯車が動き始めていた。それは恂だけでなく、彼を慕い想う少女たちも、運命の中へと引きずり込み、逃れられない深い闇へと誘おうとする。まだ、自分たちの宿命を知らない少年少女たち。彼らは石壁の町に隠された真実と向き合ったとき、いったい何を想い、どう選択するのだろうか? |
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