かけた月は戻らない
あらぐま
敗戦の兆しによる虚脱感と、長く苦しい生活による倦怠感に洗われていた時代。小説家を営む健次の元に『御引き合わせしたい人物がいる』という差出人不明の電報が届く。指定の場所に彩江という婦人がいた。導かれるままに彩江が連れて行く洋館に踏み入れる。摘み取った花に囲まれ自慰行為をしている少女。健次が脱ぎ捨てた靴を整頓しては再び崩す侍女。異様な光景を前に彩江は告げた。『お願いです!あの娘達を助けてください!』奇人病に侵された館の住人は、生の時間が限られていた。館の名前は『悲願華』。『彼女達に残りの時間だけでも、ゆとりを与えて欲しいの』足元で泣きながら願いを請う彩江を前にし、健次は断ることが出来なかった――。 |
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